医療法人医誠会 医誠会病院脳神経外科・脊椎脊髄外科

低侵襲脳神経外科治療としてのカテーテル治療

その動脈瘤も開頭でのクリッピング術ではなく、カテーテルで治療できるかもしれません

ステント(図1)未破裂脳動脈瘤は日本人における有病率は2~6%で、脳ドックや頭痛・眩暈精査でのMRI等の画像診断にて偶然に発見されます。未破裂動脈瘤の年間破裂率は平均1%弱あり、破裂よってクモ膜下出血になるとその後の社会復帰率は20-30%程度である為、画像検査で指摘された場合は破裂前に治療要否を検討する必要があります。その結果、未破裂動脈瘤の大きさ・形状・瘤の位置、患者さんの年齢・日常動作レベルにより、一部の患者さんに破裂予防治療を推奨することになります。

(図2)脳動脈瘤の治療方法としては、開頭によるクリッピング術とカテーテルを用いる血管内治療でのコイル塞栓術の大きく2通りの方法があり、コイル塞栓術は開頭を要しない、その低侵襲性から未破裂脳動脈瘤治療において選択されることが年々増えています。
しかしコイル塞栓術の不得手とする動脈瘤もあり、特にサイズの大きな瘤や動脈瘤頚部径の大きな(くびれの少ない)瘤では不完全な閉塞状況で治療が終わり、治療後も破裂予防効果がやや乏しくなる可能性がありました。その為、不完全塞栓となる可能性が高いと想定される、この様な動脈瘤ではクリッピング術が選択される傾向がありました。最近になり、この欠点を補いうる治療手段としてステント(図1)を併用した脳動脈瘤塞栓術が行われるようになっています。
5mmないし7mm以上の最大径を持つ比較的大きな脳動脈瘤のうち、瘤頚部のくびれの少ない(瘤の頚部径が4mm以上)のものに適応され、動脈瘤が起始している血管にステントを留置しておき、塞栓する為のコイルが血管側に逸脱することを防ぎながら、完全閉塞を得ようとする治療手段(図2)です。

今回提示した2例は、コイル塞栓術で治療を行うとしても単純な塞栓では治療不可能であり、バルーンカテーテル等の塞栓支援技術を併用しても完全閉塞を得ることは困難であったと考えられます。しかし塞栓支援ステントを使用することで、『切る』治療である開頭してのクリッピング術を選択することなく血管内治療のみで良好な結果が得られています。
一方で、塞栓支援ステントを使用することのデメリットも存在します。まず動脈瘤内部に留置するコイルだけでなく、本流の血管自体の内部に金属異物であるステントを留置することから治療時とそれ以降のステント留置部血管の閉塞やステント留置部より末梢に血栓性脳梗塞を生じる可能性があります。これらのリスクを下げる為、この治療を受ける患者さんは治療1~2週間前に開始してから治療後1年までの間、抗血小板薬の内服を必要とします。また抗血小板薬を内服することで血をさらさらにする為に頭蓋内出血や上部消化管出血を生じる可能性がわずかにあります。
以上からステント併用下で治療を行う場合、一定期間これらのリスクが0にはならないことから、他の代替治療方法では治療困難または治療リスクが非常に高く、ステント使用が必須であると考えられる脳動脈瘤を持つ患者さんを選択し、当院ではステント支援下動脈瘤塞栓術を行っております。

未破裂動脈瘤でのステント併用治療施行症例

治療前の血管撮影

眩暈精査で発見された大型動脈瘤眩暈精査で発見された大型動脈瘤。
動脈瘤の最大径11mm、瘤頚部の最長径4.4mm。

治療開始時の様子

脳動脈瘤内部にコイルを充填する為のカテーテルを留置されており、動脈瘤頚部をカバーするように血管内部にステントが留置されている(左図)。動脈瘤にはくびれがないものの、ステントがあることより血管側にコイルが脱落することなく、コイルが瘤に充填されている。

治療開始時の様子

治療終了時の血管撮影

動脈瘤に充填されたコイル(左図の緑色部分)、血管閉塞することなく動脈瘤は完全に閉塞している。

治療終了時の血管撮影

クモ膜下出血を呈した破裂動脈瘤でのステント併用治療施行症例

治療前の血管撮影

治療前の血管撮影クモ膜下出血を呈して発見された大型動脈瘤。
動脈瘤の最大径11mm、瘤頚部の最長径5.9mm。

治療開始時の様子

治療開始時の様子脳動脈瘤内部にコイルを充填しているが、動脈瘤頚部に留置されたステント(この画像ではステント両端の一部のみ見える)があることで、血管側にコイルが脱落しない。

治療終了時の血管撮影

動脈瘤に充填されたコイル(下図の緑色部分)が、血管閉塞することなく動脈瘤を完全に閉塞している。この治療により再破裂が防止され、クモ膜下出血発症の19日後の早期に後遺症なく自宅退院できている。

治療終了時の血管撮影
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