医療法人医誠会 医誠会病院脳神経外科・脊椎脊髄外科

脳梗塞

急性期脳塞栓症の治療 早期発見と早期専門病院への搬送が決め手になる

脳塞栓のなりやすさを示す、CHADS2スコア高齢化にともない、心房細動をもつ患者さんが増え、抗凝固の内服をしていないと高頻度で脳塞栓症をきたします。 別表に脳塞栓のなりやすさを示す、CHADS2スコアを掲げました。0点でも脳梗塞は年1.0%、3点で年5.0%、4点以上では年7.0%も脳梗塞をきたします。
予防としては、ワーファリンやDOACとよばれる抗凝固剤を内服しておくのがもっとも有効です。

万が一脳塞栓で片麻痺、失語など症状がでた場合は、一刻もまたずに専門の病院で治療を受ける必要があります。
もっとも簡便な方法としてTPA静注療法がありますが、TPAのみでは再開通率は40%以下、とくに血管の太い内頚動脈の閉塞にいたっては再開通が10%台という惨憺たる成績で、静注後にカテーテルによる血栓除去を行うことは現在では必須となっています。平成30年度の診療報酬改定でも、TPAのみの施設と、血行再建を行う施設では地域医療係数が前者で0.5ポイントもさがりました。さらに、今後Comprehensive Stroke Centerという概念で、血管内治療専門医3名以上、脳卒中または神経内科医1名以上、脳外科一般手術のできる体制づくりも要求されてきます。

脳塞栓の治療は発症4.5時間以内ではまずはTPAですが、投与前に脳梗塞が完成されていないことが条件になります。Diffusion MRIであまり高信号が広範囲に出ず、Perfusion MRIで血流の低下が著しい場合が適応になります(例1)。このようにdiffusionの範囲とperfusionの範囲が合致しないのをmismatchといいます。この場合時間の経過とともにあっというまに梗塞が完成してしまうので、TPAから続けてカテーテルによる血栓除去を急いで行う必要があります。カテーテル血栓除去ではステント型血栓除去デバイスの使用により再開通は当院でも90%以上得られています。
一方で時間的には間にあっているはずなのに、側副血行路があまりなければ脳梗塞はすでに完成してしまい、そのあとの治療はできません(例2)
側副血行路がかなりあれば発症8時間をすぎても間にあう場合もあります。

TPAやカテーテルによる急性期治療はいずれにしても時間との勝負です。1時間遅れるごとに社会復帰できる率が20%ずつ低下します。TPA治療も3時間以内と3-4.5時間では結果はまったく違います。治療が遅れると死亡率も高くなります(2019 Stroke HERMES Collaborators)。

例1.Mismatchの例

例1.Mismatchの例

Difusionではあまり梗塞はないが、perfusionでは広範囲に脳血流が低下(青い部分)、MRAでは右内頚動脈が閉塞。

例1.Mismatchの例

カテーテルで血行再建を行なった。

例2.脳梗塞がすでに完成されている例

例2.脳梗塞がすでに完成されている例

Difusionですでに広範囲に高信号を示し、perfusionでもおなじ範囲に脳血流が低下(青い部分)、MRAでは左内頚動脈が閉塞。
カテーテルで血行再建を行わなかった。

Drip and Ship, Retrieveの重要性

脳梗塞急性期は発症4.5時間以内はTPA静注で麻痺など回復する可能性があります。一方、内頚動脈閉塞などTPAではなかなか血栓がすべて溶けきらない症例もあり、いまだに、TPAでは再開通率20%以下で予後不良です。再開通しない場合は急いでカテーテルによる血栓除去を追加する必要があります。ESCAPE(2015) および EXTEND-IA 研究(2015)では、ステント型血栓除去用カテーテルの追加使用により 神経学的転帰が改善することが示されました。

追加でカテーテル治療を行う場合はやはり時間をあまりあけないことが重要です。脳梗塞の急性期でTPA治療を行う施設は比較的多いのですが、そのあとのカテーテル治療まで行える施設はまだ少ないのが現状です。

そこで当院では、他院でTPAを行った症例をただちに受け入れ、早期にカテーテル治療を追加で行う体制を整えています。常勤の脳血管内治療専門医が2名おり、また院内でのカテーテル血栓除去パスにより、時間を短縮し治療する体制をとっています。

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