脳神経外科・脊椎脊髄外科

医療従事者、開業医向けトピックス

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くも膜下出血とその治療

くも膜下出血はどういう病気?

くも膜下出血は、頭痛や意識障害を突然、何の前触れもなくきたし、1/3が死亡、1/3が麻痺や失語など重篤な障害をのこし、1/3しかほぼ日常生活に復帰出来ないという、大変おそろしい病気です。わが国での発症率は高く、人口10万人あたり年間18人程度罹患します。米国などではやや少なく人口10万人あたり年間12人程度となっています。
危険因子は、喫煙(特に1日に40本以上のヘビースモーカー)、身内にクモ膜下出血を患った方がいる、多嚢胞腎という遺伝的な病気をもつなどです。
癌などと違い前兆は全くないので発病するまで気がつきません。頭痛は大半最初に感じますが起こり始めがなにか突然ハンマーで頭をたたかれたような痛みではじまり、以後徐々に軽快し、出血量が少ないと全く頭痛がなくなることさえあります。この状態で放置していると今度は再度出血し重篤な状態に陥ります。しかしながら片頭痛や髄膜炎との鑑別は困難な場合も多いのが現状です。
髄膜炎は強い頭痛と発熱が必ずあります。ウイルス性髄膜炎では一般採血ではCRPは陰性であることが多く、項部硬直もわずかで判定できません。髄液検査が必要です。
片頭痛は繰り返して起こっているかどうかなど過去の経歴が重要です。

図1

診断はCTが有用です。出血があるとクモ膜下腔にそって白いすじのような陰影ができます。出血の量が少ないと見落とすこともあり注意深くみる必要があります。また2-3日経っているとCTでみて血腫が消えていることがあります。その場合は髄液検査が決め手となり、少しでも液の色が黄褐色になっていれば出血ありの判定になりますが、穿刺時に血液がまじったりして判定不能になることもしばしばあります。
脳の動脈瘤は最近は3D-CTA(CTによる血管造影)で行います。3mm以下の動脈瘤は検出しにくいという欠点はあるものの、通常血管撮影で動脈瘤を探した場合に撮影中に刺激で動脈瘤が破裂することがありその危険性はかなり減少します。

治療について

治療は、一度出血した動脈瘤の再出血を予防することがまず第1歩です。そのためには動脈瘤を根治する必要がありますが、開頭クリッピング手術と、最近は血管内治療というカテーテルで動脈瘤を塞栓するふたつの方法があります。それぞれ利点、欠点がありまた得意、不得意な動脈瘤があります。血管内治療専門医と手術のできる両方の医師がそろっているところがベストです。
開頭クリッピング手術は、全身麻酔で行ないます。

図2

利点は、どんな動脈瘤でも対応できる。
根治性は高い(あとの追加処置を必要とする場合はまれ)。
術中に破裂しても処理できる場合が多い。
クモ膜にたまった血腫を洗浄し減らすことができる、など挙げられます。
欠点は、開頭がいるので術後疼痛を若干生じる、椎骨脳底動脈瘤では手術侵襲が大きい、などあります。
血管内治療(塞栓)では、局所麻酔、全身麻酔いずれでも治療可能です。

図3

利点は、頭に傷が生じない。
椎骨脳底動脈の動脈瘤は比較的低侵襲で治療できる、など挙げられます。
欠点は、頭蓋内血腫は除去できない、術中破裂をすると頭蓋内に出血が増大する、カテーテルで到達するのが遠い中大脳動脈瘤は不得手、ネックの幅の大きい動脈瘤は塞栓に用いるコイルがおさまらないので向かない、など挙げられます。
2002年のISAT(International Subarachnoid Aneurysm Trial, 開頭クリッピングかコイル塞栓かの国際ランダム化試験)では、コイルの方が予後がいいと結論され、術後1年の予後も遜色ないと発表され、一時マスコミもこぞって血管内治療の優位性を強調し宣伝しました。しかしこの研究には思わぬピットフォール(落とし穴)があります。ひとつは、開頭手術でもコイル塞栓でもどちらでもできるという症例に限られていること、もうひとつは大半は出血量の少ないグレードのいい動脈瘤が全体の90%を占めていたことです。日本でのRESAT(Retrospective Study of Endovascular Subarachnoid Aneurysm Treatment)という、もう少しグレードの悪い動脈瘤もいっしょに集めた研究ではグレードが悪い動脈瘤では逆に開頭クリッピングのほうが成績がいいとの結果となりました。
その後ISATの2005年の追加報告では、コイル塞栓のほうがクリッピング手術に比べて症候性てんかんは減少するが、再出血の率は有意に多かったと報告されています。

単に開頭するのがいやだから、などという選択で安易に血管内治療を選ぶのは禁物です。その動脈瘤に対するベストの選択がなによりも重要です。

再出血予防のための治療とその後

手術のみですべて終わったわけではありません。術後クモ膜下出血は残っており、これがあとで水頭症や脳血管攣縮をきたします。脳血管攣縮のメカニズムはわかってはいませんが、cooperative studyでは約3割に症候性の血管攣縮が生じ最悪多発脳梗塞で致命的になったりいわゆる植物状態になったりします。2週間以内におこります。エリル(Ca拮抗剤)の点滴や、脳血管カテーテルによる血管拡張などの対処の方法がありますが、決め手になるものはありません。

おわりに

なかなか、これだけ手術の技術や脳血管攀縮に対する研究や治療の開発が進んできても、いまだにくも膜下出血の全体の成績はここ10年あまり改善していません。リスクファクターをお持ちの方は禁煙がもっとも有効な予防手段と思われます。また前もってMRAなどで動脈瘤があるかどうか調べる方法もあります。しばらくは今後予防面での進歩に期待するしかありません。